情報に飢えていた時代から、AI時代への旅
皆さんは何か調べ物をする時、どういう方法を使っていますか?
私がパソコン通信を始めたのは、工場での閉じこもりの仕事で外との関わりがなくなり、情報に飢えていた時でした。当時は始まったばかりのニフティサーブに登録し、パソコン通信を通じて調べ物をしていました。
その後、Windows 95の登場でインターネットが飛躍的に広がり、私にとってのIT人生が本格的に始まりました。ヤフーが登場し、辞書のようにサイトが登録された中から調べ物をする時代。そしてGoogleの登場によって、検索エンジンで調べ物をする時代へと移り変わっていきました。
インターネット世界を支える「広告」という仕組み
ここで重要なキーワードが「広告」です。
今のインターネットの世界は、「広告」を理解すると謎が解けます。むしろ、「広告」を理解しないで今のデジタル世界を説明することは不可能です。
自分のホームページ、ブログ、YouTubeやSNSに訪問してもらうだけで、あるいは広告を見てもらうことで、訪問数に応じて広告収入が入る。この仕組みによって、Yahoo!やGoogleは巨大企業へと成長しました。
そして、個人が血眼になって良い記事を書き、アクセスを増やす努力をしているのも、この「広告収入」という仕組みがあるからです。
GoogleとMicrosoftの対照的な戦略
この「広告」を軸に考えると、GoogleとMicrosoftの違いが見えてきます。
GoogleはAndroidというスマホのOSを無料で提供しました。一方、MicrosoftはWindowsというパソコンのOSを有料で提供してきました。
Googleの戦略は見事でした。AndroidというOSを直接の収入源とするのではなく、広告で稼ぐための道具として無料提供したのです。決済会社がお店にQRコードのシールを貼ってもらうようなイメージですね。
世界中のスマホユーザーを味方につけることで、ユーザーのサイト訪問によってスポンサーから広告収入を得る。そして逆に、ユーザーが良い記事を作成してアクセスを増やせば、今度はGoogleから広告収入を得られる。この双方向の仕組みが、Googleを検索エンジンの王者へと押し上げました。
Microsoftの苦闘 – Windows 8の衝撃的な体験
一方、Microsoftはどう動いたか。
私は、MicrosoftがGoogleと地位を入れ替えたいという野望を持っていたのではないかと考えています。その象徴がWindows 8でした。
覚えていますか? Windows 8では、左下のスタートボタンがなくなりました。
私が初めてWindows 8をインストールした夜、シャットダウンしようとして愕然としました。スタートボタンがないので、電源を切る方法がわからない。色々試行錯誤した結果、最後にとった方法は……電源コードを抜くことでした。
後日、量販店で小型ノートパソコンを触って気づきました。Windows 8は、マウスではなくスマホのように画面をタッチして操作する設計だったのです。
でも考えてみてください。会社のデスクトップパソコンを、タッチパネルで操作する? 作業効率が悪いし、腕が疲れてしまいます。これは典型的な「ユーザー目線ではなく、Microsoftファースト」の発想でした。
そしてMicrosoftは、Windows Phoneというスマホ版OSも出しましたが、これも失敗。私の知り合いの社長さんは半年でiPhoneやAndroidに戻し、「使いにくい、役に立たない」と酷評していました。
次なる戦略 – ブラウザと検索エンジンの乗っ取り作戦
ハード面での失敗後、Microsoftが次に狙ったのは、Googleの広告ビジネスモデルを真似ることでした。
そのためには、ユーザーをGoogleのブラウザからMicrosoft Edgeへ、検索エンジンをGoogleからBingへと乗り換えさせる必要がありました。
しかしユーザーは自分の意思では変更しません。そこでMicrosoftは、Windowsアップデートの名のもとに、半強制的にブラウザと検索エンジンをMicrosoft製品に変更させるという手法を続けています。
ただ、ネットビジネスで広告収入を得ているブロガーさんに聞くと、「マイクロソフト社のサービスは使う気になれない。ネットビジネスならGoogle一択」という答えが返ってきます。
良いものであれば、自然にユーザーは乗り換えます。でもMicrosoftのサービスに魅力を感じないというのが正直なところです。Windows Messengerが使いにくくてSkypeを使っていたら、Microsoft買収後のSkypeも使いにくくなり、2025年5月にサービス終了。30年前のWindows 95の衝撃は忘れられませんが、その後のサービスには首をかしげることばかりです。
そして、ChatGPTという革命
そんな中、パソコン通信を始めた当時から夢にまで見たシステムがついに登場しました。ChatGPTです。
最初に会話したときの感激は忘れられません。本当に鳥肌ものの出会いでした。
そしてChatGPTの登場で、Googleの天下と思われていた世界が急速に動き始めました。
今までは「困ったときのGoogle検索、困ったときのYouTube」でした。ところが最近は真っ先に「困ったときのChatGPT」です。そしてGemini 3の登場で、「困ったときのChatGPT、困ったときのGemini 3」へと変化してきました。
つまり、GoogleやYahoo!の検索エンジンを使わなくなったのです。
Googleは検索エンジンを自ら終わらせた?
実は、Googleも変化を察知していました。
2023年1月、ChatGPTの月間ユーザー数は1億人に到達。史上最も急速に成長したアプリとなりました。その1年後には月間15億以上のアクセスを生み出し、その多くはかつてGoogleに入力していた質問でした。
最も大きな落ち込みが見られたのは「〜とは」「〜の方法」「〜を説明して」といった情報収集型の検索。人々は、これらがAIの最も得意とする分野だとすぐに気づいたのです。
Google自身も2024年の決算説明会でこの傾向を認め、サンダー・ピチャイCEOは「ユーザーが複雑なクエリに対して直接的な回答を求めている」と指摘しました。
Gemini 3は、その潮流に対するGoogleの答えです。
今、検索バーに質問を入力すると、従来のウェブサイトリストではなく、AIによる「完結した回答」が表示されます。もはやこれは検索エンジンではなく、「アンサーエンジン(回答エンジン)」と呼ぶべきものです。
Googleのジレンマ – クリックが消える世界
ここにGoogleの深刻なジレンマがあります。
2023年、Googleの親会社アルファベットの収益の約57%、つまり約26兆円が検索広告によるものでした。人々がリンクをクリックすることに、莫大な金額が直結しているのです。
しかしAIの回答はすべてを1つの画面に凝縮してしまいます。もはや「1ページ目」すら存在しません。AIが的確な回答を提示すれば、ユーザーは他のリンクを一切クリックしないかもしれません。
実際、2024年には大手ニュースサイトへのオーガニック検索トラフィックが20〜30%減少。2025年第1四半期には、中規模パブリッシングネットワークの一部が35%以上のトラフィック減少を報告しています。
新しい悪循環の可能性
ここで私が懸念しているのは、悪循環の始まりです。
現在、Googleの検索エンジンで検索しても、結果ページのトップにはAIの答えが表示されます。SEOの基本は「検索結果の1ページ目上位に表示されないと意味がない」でしたが、その考え方が通用しなくなりつつあります。
広告収入を目的にブロガーは良質な記事を書いてきました。そしてChatGPTをはじめとするAIは、このブロガーのサイトの情報を素材として能力を高めてきました。企業や個人サイトの記事は、人間の体験談や知恵、工夫の宝庫だったのです。
しかし、AIの回答でユーザーが完結してしまうと、広告のあるサイトに来てもらえません。Googleにもブロガーにも広告収入が入らなくなります。
広告収入が入らなければ、良質な記事を書く意欲が失われ、記事の質や分量が低下する。すると、AIの情報源も枯渇し、AI自体の品質低下にもつながりかねません。
若い世代は既に動いている
選択の余地はありませんでした。なぜなら2023〜2024年の調査で、Z世代の40%以上が情報収集においてGoogleよりもTikTokやChatGPTを好むことが示されたからです。学生の間では、その数字はさらに高くなっています。
これほどの規模で消費者行動が変化したとき、企業には適応するか、取り残されるかの二択しかありません。そしてGoogleは適応を選びました。それも、急速に。
検索エンジンの終焉と新しい時代の幕開け
Googleは20年をかけて、検索結果の中から答えを探すよう世界を「教育」してきました。しかしChatGPTは、質問を投げかけて答えを待つように人々を「再教育」したのです。
Gemini 3の展開は、Google自身が「検索エンジンの終焉」を理解しているという、最も明確なサインです。
従来の検索が一夜にして消滅するわけではありません。しかしこれは、旧来の検索エンジンを完全に終わらせるための大きな一歩なのです。
20年もの間、ウェブサイトは「検索のルール」に基づいて構築されてきました。見出しを最適化し、キーワードを詰め込み、終わりのないハウツー記事を公開する。それがSEOでした。
しかしAIは、そのようなことには報いません。AIが評価するのは、明確さ、オリジナリティ、そして深みです。信頼できる情報や、正確に要約できるコンテンツを探し求めます。
つまりインターネットは今、異なるインセンティブを中心に再編され始めているのです。今後はSEO重視のページが減り、詳細な解説記事や独自データ、専門家による分析が増えていくでしょう。
未来はどこへ向かうのか
さて、今後GoogleやMicrosoftは、この状況に対してどう対応していくのでしょうか。
あらゆる主要なテック企業、ソーシャルメディア、ニュースメディア、Eコマースブランドに至るまでが、従来の検索ページではなく、AIが生成する回答ボックス内での露出を競うことを、まもなく強いられるようになるでしょう。
この新しい「回答主導型」のインターネットに、私たちは適応しなければなりません。
パソコン通信から始まり、Yahoo!、Google、そしてChatGPTとGemini 3へ。情報に飢えていた時代から、今や情報が溢れる時代へ。私たちの調べ物の方法は、これからも進化し続けていくのです。

